2014年11月11日火曜日

messa di voceはベルカントの試金石

声楽の教本を読むと必ず出てくる用語にmessa di voceがあります。イタリア語を直訳すると『声の設置』とでもなるでしょうか。似た用語でmezza voce(半分の声、つまり、息が半分混ざった声という意味)があるので、混同しやすいのですが、全く別の技法です。

messa di voceの解釈は人によって様々で、声楽教本によって解釈が異なっている場合もあり、初心者にとっては本質が非常に分かりにくいテクニックです。
この技術はカストラートが全盛期の頃は恐らく、当たり前のように聴くことが出来たのでしょう。残念ながら、現代ではその超人芸に接する事は出来なくなってしまいました

messa di voceの共通した認識として、"声のピッチ、ポジションを保ちながらクレッシェンドで声量を増幅し、頂点からデクレッシェンドで声量を減らしていく" というイメージがあり、youtubeなどの動画でも幾つかの例を参考にすることが出来ます。
これらの動画を参考にする時、気を付けなくてはならないのが、男声と女声では音域によって事情が異なってくるという事です。

男声、女声共、低声から中声でmessa di voceを行う事は比較的容易であり、初心者でも何も教えていないのに、既にバランスを伴って身につけている人を時々見かけます。
これが音が高くなり、パッサッジョを越えた音域になってくると、女声では正しいテクニックを身に付けた者でないと、喉が閉まり、実現困難になってくるのです。
欧米では学生でも比較的多くの人が出来ているこの技術ですが、声が喉に貼り付く傾向が強い日本人においては、一部の一流の人を除いて、あまりお目に掛かった記憶がありません。ピッチやポジションが間違っている限り、messa dI voceは決して実現出来ないからです。

男声においては、パッサッジョを越えた音域で難しくなるというより、世界中の一流歌手を見ても、この音域でクレッシェンドしてからデクレッシェンドが出来る人は自分が知る限りでは存在しません。(声のポジションをその箇所だけ喉奥に持って行って出す歌手は何人か聴いた事がある)
ファルセットからクレッシェンドで声量が頂点に達した所から一瞬だけデクレッシェンドに入りかける事は出来ても、女声のように、そこから声をずっと絞っていける例を見た事がありません。男声で最もテクニックがある人でも、この音域では最初からフォルテで、その後デクレッシェンドで声を絞っていくのが精一杯で、それだけでも神業と思える程の技術なのです。

messa di voceはベルカント唱法のテクニックで最上位に位置するものであり、それを実現出来るよう、日々、勉強を積み重ねる事が、男女共に我々が進むべき正しい道だと私は思います。

http://belcanto.jpn.com




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