2014年12月4日木曜日

ホールとレッスン室で歌う感覚の違い

本番を前にホールで練習する事は非常に重要な事です。
普段練習している狭い防音室や練習室で確認出来る響きや骨伝導を通した聞こえ方は、ホールでは全く異なる感覚で自分には聴こえて来るからです。

一般的に、一個人がホールで歌えるのは本番や合わせの時ぐらいで、場合によっては、合わせも防音室で行われることが多いので、本番で音響の異なったホールの感覚が掴めた時は、既に一曲歌い終えていたという事になり、舞台慣れしていない人にとってはこういった状況で本番を迎える事が相当なプレッシャーを生むことに繋がる可能性があります。

年間を通してホールで歌う機会の多い歌手であれば問題はありませんが、例えプロとして活動している声楽家であっても、その活動の中心となる場所が音楽ホールではない場合、定期的にホールを借りて練習する事は非常に重要な事です。

耳の肥えたクラッシックファンはオーケストラの録音を聴けば、どこの国のオーケストラの演奏か分かるといいますが、オーケストラの音色が作られる要因の一つに「どのような練習場所で普段の練習がなされているか?」という、環境要因があります。
歌劇場専属のオーケストラであれば、劇場で練習する時間が多いので、団員はそこでの反響音を聴いて、自分と楽器との奏法上のバランスを取ります。
例え海外での引越し公演で練習会場が変わっても、普段練習している時の楽器とのバランスは体に染み付いているので、奏法が練習会場の音響に影響されることがないのです。

声楽の場合、自分の身体を楽器にするという特別な使い方が、自分に聴こえる声と実際に外で聴こえる声との差異を生むので、楽器演奏者以上の配慮が必要になるのです。
レッスン室において自分の指針としているポジションやその他の感覚が、そのままホールで通用する事は、初心者や独学で勉強した人の場合、99パーセント無いと言っても過言ではありません。
ホールの最上階に一番奥まで良く響く声、イタリアで言われる"テアトラーレな声"とは観客の耳元でバイブレーションを感じさせるような周波数が含まれた声で、練習室や狭い防音室での声がいくら巨大であっても、全くそれとは関連性の無い要素で作られたものなのです。

練習やレッスンを終えて部屋を出た時、喉に疲れが無く、爽快な開放感を感じられたとすれば、その練習は恐らく正しく行われており、練習室を出た先が "どこでもドア" を経て舞台の下手に繋がっていても安心して歌える筈です。

http://belcanto.jpn.com

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