2014年8月2日土曜日

他人を信じることの難しさ

八王子市いちょうホールでのコンサートを無事に歌い終えることが出来た。当日会場で聴いて頂いたお客様のほとんどは、私が長い期間に渡って不調続きであった事はご存知無いので、コンサートを純粋に楽しんで頂けたと思う。一方、これまでの数々の失声演奏につき合わせてしまったにも関わらず、今回も来場頂いた方々はどういった気持ちで聴いて下さったのだろうか? 終演後にはお会いすることが出来なかったが、ある一人の男性が書いてくれたアンケート用紙を見て胸が熱くなった。

恐らくその男性は、私が10年前にイタリアから帰国してから出演した殆んどの公演に足を運んでくれたと思う。勿論、きっかけは良い演奏をしたことでファンになって頂いた訳だが、その後、声の調子を崩して途中降板や、失声演奏を繰り返しても辛抱強く演奏会場に駆けつけてくれ、影ながら励まし続けてくれた。

以前は良い演奏をしていたが、声の調子を崩して、何年にも渡って上手く歌えた試しが無い壊れかけの歌手がいたとしたら、その復活を信じてチケットを買い続ける事が出来るか自問自答してみた。
声の美しさ、テクニックの完成度、姿、形の美しさ・・・・・・自分にとってこれらの要素を追い求めてチケットを買い続ける事は到底出来ない。では何を持ち合わせていれば次回の演奏会への期待感を維持できるのか?

的を得た言い方では無いかもしれないが、例えば、人間が何らかの殻を破ろうとする時に偶然に発せられるエネルギーがあるとすれば、「そのエネルギーを共有出来る場に身を置きたい」そう願うから人は他人を信じようとすることが出来、そのエネルギーの予感が感じられなくなった時に他人を信じられなくなるのでは……。ふとそんな考えが頭をよぎった。


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